『ワルツを踊れ Tanz Walzer/くるり』(2007)

くるりは下手をすれば自家中毒を起こしそうな音楽的語嚢の百花繚乱っぷりを、普遍的なポップ・ミュージックにもマイナー・ポップにも落とし込める技量を持った稀有なバンドなんだと改めて思った。
今までの作品もそうだったが本作では特に同時代的な共通項や共時性を持っていないアルバムに仕上がっている。だからこそ懐かしくて新しい。ロックンロール、ダンスミュージック、民族音楽、そしてクラシック・・・。あらゆる音楽が定点を持たずに回転している。まさに「くるり」。
そして前作『NIKKI』では封印していたくるりのドロっとした部分への視座があるのも良い。しかも初期のように切羽詰まった感じではなく余裕があるところも良い。それはデビュー作「さよならストレンジャー」から本作「ワルツを踊れ」というタイトルの変化、それ以上にデビュー曲「東京」から最新シングル「JUBILEE」の歌詞の変化から分かるだろう。
社会の流動化と記号化と自己責任化によって「君がいるかな/君とうまく話せるかな/まぁいいか/でもすごくつらくなるんだろうな./君が素敵だった事/ちょっと思い出してみようかな」と「何かを失う」ことにフォーカスしていた『東京』から、「失ってしまったものはいつの間にか/地図になって/新しい場所へ/いざなってゆく」と歌う「何かを失いそれでも何かを得る」ことにファーカスした『JUBILEE』への変化。
本作は「何か」を両方とも愛おしく思えた時に鳴る「祝福=JUBILEE」の音楽だ。この音楽には社会の不条理にただ涙するだけではなく、「ワルツを踊る」ぐらいの余裕と勇気を持つことの必要性を教えてくれる。