『海辺のカフカ』

http://book.asahi.com/clip/TKY200611010272.html
今さらだが、フランツ・カフカ賞おめでとうございます。そして、その『海辺のカフカ』を読了。
処女作『風の歌を聴け』から7割方、春樹作品と接触。やはりこの作品も、あまりに春樹的な作品だった。
春樹作品読了後常に感じる事だが、稀代のストーリーテラー故に、やはり抜群に面白い。でもすごくはないのだ。
『海辺〜』も旧作と同じく「自分自身の謎(何の為に生きているか?)」が根源的なテーマで、それは「承認」によって解決されるという定番の話。
最初こそ「世界はメタファーだ、田村カフカ君」という台詞に象徴されるように、メタフォリックに読み取れる部分が多々ある。
「少年犯罪」、「家庭内暴力」、「PTSD」、「社会的脱落」等。今日的な問題を想起させつつ物語は進行していく。
その後、次第に「妄想」だけへとシフトしていく。そして、余りにも現実とかけ離れたまま、主人公が「承認」を得る。
しかし「そんなに簡単にいきませんよ、現実は」と突っ込みたくなる。読者が余計に現実と乖離したまま妄想に陥るトリガー・・・。
「妄想」の先に「承認」を得られるプロセスなどあるのか?現(うつつ)を抜かして「妄想」で救われるか?
そこが面白いけどすごくない由縁。浅野いにおの漫画を読むほうが100倍救われる。
でも『アフターダーク』も読もう。言葉遊びの巧みさはやっぱり逸品なので。